さくらのソーシャルワーク日記

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#5 申請主義の課題を解決するための処方箋 その5〜申請主義を検討する上で重要となるファクターとは その2〜

申請主義とは 〜正しい定義こそが本質的な課題解決のためのスタートラインだ〜 - さくらのソーシャルワーク日記

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前回までの振り返り


前回までを簡単に振り返りたい。


経緯


本稿は、申請主義の否定や批判は福祉の否定や批判だと述べたところから始まる。

その意図するところは、第1回の記事をご覧いただきたい。



帰責性


本稿では、自己決定に当たって生じる支障を「権利侵害」と述べた。

そして、この権利侵害の態様を分類する上で、「帰責性」を重要な要因と説明した。


ここでいう「帰責性」とは、申請主義において、適切に権利行使することが期待できる状況にあるかどうか、という意味で用いていることにご留意いただきたい。


申請主義を検討する上で重要となるファクター


帰責性の本質を検討するには、まず、申請主義を検討する上で重要となるファクターについて整理することが重要である。


ここは議論の中核であり、非常にボリュームがあるので、前回から引き続き、数回に分けてご説明したい。


前回は申請主義を検討する上で重要となるファクターのうち、「登場人物」と「プロセス」についてご説明させていただいた。



今回は3つ目のファクターとなる「能力」についてご説明したい。

 

目次


登場人物、プロセスに次ぐ第3のファクターは能力


さて、申請主義を検討する上で重要となるファクターの続きである。


「登場人物」、「プロセス」ときて、もう一つ重要なファクターがある。

それは、「能力」である。


能力と言っても、頭の良さとか、何か特殊な技術のことを言っているのではない。


能力とは、事実ベース、具体ベースの実現可能性


ここで言う能力とは、

  1. 事実ベース、
  2. 具体ベースの
  3. 実現可能性

のことである。


先のプロセスにおける視点として、「課題の発見・認知」を挙げさせていただいた。

これを事実ベース、具体ベースで実現するためには、何ができる必要があるのか考えてみたい。


ここでは、「生活の困窮」ということを例に挙げる。


事実ベースの理解


まず、生活の困窮という「事実」を認識できる必要がある。


事実とは何か。

 

  • 食べ物がない、
  • 食べ物を買うお金がない、
  • 貯金もない。

 

ごく単純化してしまえば、こうした事実が生活の困窮に関する事実となる。


これらに客観性はある。

しかし、問題は、具体的にイメージできるほどの具体性はないことだ。


いわば、「課題を抽象的に言語化したもの」と言える。


専門家によるカンファレンスの中では、(例えば)食べ物がない、という抽象的な表現を用いることも多いだろう。

議論を効率的な行うためには、言語の抽象化が不可欠だからである。


しかし、実際の支援の場面において、本人の状況や認知能力の確認を行う上では、この事実ベースにとどまっていては不十分だ。


そこで、次の具体ベースでの理解が必要となる。


具体ベースの理解


先の「生活の困窮」の例を具体レベルにするとどうなるか。


下は、上記の事実ベースを具体ベースに置き換えた例である。(事実ベース→具体ベース)

 

  • 食べ物がない→冷蔵庫には何も入っていない
  • 食べ物を買うお金がない→ 財布にはお金が一銭もない
  • 貯金もない→通帳には貯金残高がない


具体ベースに置き換えることで、グンとイメージしやすくなることがお分かりいただけると思う。

 

具体ベースに置き換える意義


先の例では、「食べ物がない」という事実ベースだけでは、具体的にイメージできないことが問題であった。


これを「冷蔵庫には何も入っていない」という具体ベースにしたことで、初めて食べ物がないということが具体的にイメージできた。

つまり、具体ベースにしたことで、食べ物がないという事実認識ができた、ということが重要なポイントだ。

 

これは、本人(あるいはその家族)にとっても同様である。


すなわち、こうした具体レベルで認知ができるかどうかが、本人の能力(生活困窮という課題を認知することができるかどうか)の有無を判断する上で重要だということになる。


重要な具体レベルの理解


今述べたとおり、重要なことは、具体レベルだ。


これをもう少し掘り下げていきたい。


具体レベルの掘り下げ


上記の具体レベルの例では、「物理的な存在」を前提としていることがポイントだ。

すなわち、「冷蔵庫、財布、通帳」である。


具体レベルでは、これらの「物理的な存在」の「状態」を何かしらの方法で確認(認知・確認・理解)できることが前提となる。

 

つまり、

  1. これらの場所について認知できる
  2. これらの役割について認知できる
  3. これらの状態を確認できる
  4. その状態が意味することを理解できる

ということが前提になる。


具体的な事例を見てみよう。


具体的な事例(通帳の例)


先ほどの通帳を例にすると、

 

  1. 通帳がどこにあるか知っている
  2. 貯金の意味が分かる
  3. 残高のページを確認できる
  4. いくら残っているか理解できる


ということになる。

そして、これは通帳がちゃんと記帳されていることが前提だ


課題の発見・認知は簡単ではない


こうして見てみると、生活の困窮ということ一つとってみても、課題を発見し、認知するということ自体が、実はさまざまなミニプロセスを経て実現されるものだということが分かる。

すなわち、必ずしも簡単なことではないということである。


次回は、能力の3つめの構成要素「実現可能性」


前述したとおり、能力とは、事実ベース、具体ベースの実現可能性である。


今回は、能力の構成要素のうち、事実ベース、具体ベースということについてご説明した。


次回は、3つ目の構成要素である「実現可能性」についてご説明したい。

#6 申請主義の課題を解決するための処方箋 6〜申請主義を検討する上で重要となるファクターとは その3〜 - さくらのソーシャルワーク日記