#6 申請主義の課題を解決するための処方箋 その6〜申請主義を検討する上で重要となるファクターとは その3〜
申請主義とは 〜正しい定義こそが本質的な課題解決のためのスタートラインだ〜 - さくらのソーシャルワーク日記
目次
前回までの振り返り
前回までを簡単に振り返りたい。
経緯
本稿は、申請主義の否定や批判は福祉の否定や批判だと述べたところから始まる。
その意図するところは、第1回の記事をご覧いただきたい。
今回は、前回に引き続き、権利侵害(申請上の課題)の態様を分類する上で、重要な要因となる「帰責性」を検討するためのキーファクターについて考えていきたい。
実現可能性
前回ご説明したとおり、申請主義を検討する上で重要となる3つ目のファクター、すなわち「能力」とは、事実ベース、具体ベースの実現可能性のことであった。
前回は、この「能力」の構成要素のうち、事実ベース、具体ベースというところまでご説明した。
今回は、能力の3つ目の構成要素である「実現可能性」についてご説明したい。
実現可能性は、最終的な効果の帰属の問題
「能力」を考える上で、実現可能性の問題についての検討は大変重要である。
なぜなら、これは「最終的な効果の帰属が、どのような力によって実現されるか」という問題だからである。
これだけでは何のことか分かりにくいと思う。
以下、具体的に見ていきたい。
帰属の実現主体は本人とは限らない
端的に言えば、「能力」は本人の力だけに頼る必要はないということだ。
そもそも、あらゆることを本人に求めるのは酷である。
言い換えれば、本人に能力があるのかどうか(すなわち、事実ベース、具体ベースでの実現可能性があるのか)の判断は、周辺状況も加味して考える必要があるということである。
事例(本人に重度の知的障害があるケース)
例えば、本人に重度の知的障害があるケースだ。
こうしたケースであっても、同居する家族が、本人に代わって一定の代理(的)行為を行うことができる場合もある。
この代理(的)行為による効果の帰属先は本人自身である。
すなわち、本人自身が自己決定することが難しい場合であっても、家族が本人の能力を補完することによって、本人の権利行使が阻害されることはないというケースである。
この場合の本人の能力の判断においては、実現可能性がある、ということになる。
この点が、非常に重要だ。
留意点
ただし、このケースについての留意点がある。
それは、本人の能力を補完する家族についても「能力」(前回ご説明したとおり、事実ベース、具体ベースの実現可能性の有無)を判断する必要があるということだ。
周辺状況を確認することなく本人に介入するのは福祉のエゴである
以上のとおり、能力を判断するに当たっては、本人以外の周辺状況を踏まえて判断しなければならないということである。
したがって、本人だけに着目して、本人に能力がないかと判断することは、大変危険なことだと言える。
ましてや、周辺状況を確認することなく、即本人の権利行使に介入するというのは、福祉に関わるもののエゴであり、本人の権利を侵害する可能性のある行為であることを指摘しておく。
周辺状況の慎重な観察が重要
重要なことは、周辺状況を慎重に観察することである。
現代社会においては、一見他者との関わりがないように見えても、何かしらの形で接点を持っていることが多い。
ソーシャルワークにおいて、本人、家族、周辺環境に関わっていくことは基本中の基本である。
この点について、ソーシャルワーカー、ましてや社会福祉士であれば、軽視することがあってはならない。
次回は帰責性の本質について検討する
ここまで、申請主義を検討する上で重要なファクターとなる3つの要素について検討してきた。
すなわち、登場人物、プロセス、能力の3つである。
能力については、さらに、3つの要素に分けて検討した。
すなわち、事実ベース、具体ベース、そして今回ご説明した実現可能性である。
これらの検討は、権利侵害(申請上の課題)の態様を分類する上で、重要な要因となる「帰責性」を検討するための前提として、申請主義に関わるファクターを緻密に分析してきたということである。
したがって、次回以降、ここまでの議論を踏まえて、いよいよ帰責性について検討していきたい。