さくらのソーシャルワーク日記

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申請主義が行政の財政負担を軽減しているというのは本当か? その4

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本稿は、申請主義が行政の財政負担を軽減しているというのは本当か?ということについて検討しているものです。


第1回では、申請主義の権利性を確固とするため、私たち福祉関係者が取り組む必要のある、解決すべき課題を3点を挙げさせていただきました。


すなわち、

  1. 行政からの情報提供の不十分性
  2. 未申請(申請しない・できない)による漏救の放置
  3. 申請前に申請を諦めることによる権利性の収奪

の3点です。


本稿では、3点目の「申請前に申請を諦めることによる権利性の収奪」について、前回から引き続きご説明していきます。

 

前回記事

 

以下、本稿の構成です。

 

 

申請前に申請を諦めることによる権利性の収奪


権利性の収奪との関連が生じる事例


前回の最後にお伝えしたとおり、次の事例においては、権利性の収奪との関連が生じるものと思います。すなわち

  1. 行政が必要な情報提供をしなかったことで、結果的に申請を諦めた事例
  2. 申請の時効や不遡及を定めている事例

本稿では、これらの事例がどのように関連し、そして、どのような問題を生じているのか考えていきたいと思います。


問題の概要


まず、どのような関連があり、どのような問題を生じているのか、その概要についてご説明したいと思います。


関連については、端的に言えば、

  • 裁判によって最終的に救済されるかどうか、

という関連があります。


そして、問題なのは、

  • 行政に情報周知の義務があるのかどうかによって、救済されるかどうかに影響する、
  • 時効や不遡及を定めている場合、申請しなかった(できなかった)ことによって逸失利益が生じる

という点が問題として挙げられます。


まず、前回ご説明した内容を簡単に振り返ってみます。


前回の振り返り(権利性の本質は行政処分と関連している)


申請主義における権利性の本質とは、行政処分との関係が大きいことをご説明しました。

 

すなわち、申請が受理されると、行政機関の審査が行われます。この審査結果に不服がある場合、行政処分の対象であれば、不服申し立てをすることができる、ということです。


つまり、不服申し立てによって、権利救済の道が開かれているということが言えます。

ここが、申請主義の権利性において、大変重要なポイントということです。


しかし、何かしらの理由、状況によって、申請を諦めてしまうことで、行政処分の機会を逃してしまいます。

つまり、権利性が奪われてしまうということです。


行政処分の機会を逃す理由や状況


何かしらの理由、状況とは、

  1. そもそも行政からの情報提供がなかったか不十分だった
  2. 行政が誤った情報提供をした
  3. 行政が申請を諦めるような教示を行った
  4. 本人が制度を利用することを「恥ずかしい」「嫌だ」と感じてしまい、申請に至らなかった(よく「スティグマ」と呼ばれているのは、このことです)

などが考えられます


情報周知が不十分というのは、本稿における1点目の課題としてすでにご説明しましたが、

  • 制度そのものを知らない、
  • 制度を知っていても自分が対象か分からない、
  • 手続きが分からない

などを言います。


今回問題にしているのは、行政に関することなので、

  • 1の情報提供が不十分、
  • 2の誤った情報提供、
  • 3の申請を諦めるような教示

の3点と関連しています。


いずれにも共通することは、

  • 申請前の問題であること

であることです。

 

したがって、どの時点で申請を諦めたとしても、結果とした申請を諦めることで、権利性の収奪の問題が生じるのです。


解決の方向性


この問題の解決の方向性を整理すると、

  1. 権利性の収奪が起きないようにすること
  2. 万が一起きてしまっても、事後的に救済されるようにすること

の2点に分かれます。


本連載の1回目で、行政に情報提供の義務付けをするべきか検討した1番の論点は、

  • 権利性の収奪が起きないようにする

ためでした。

つまり、事が起きる前段階で対処しようということです。


その解決策の一例として挙げたのが、行政に対する情報提供の義務付けです。


しかし、これには問題がありました。

義務付けするにしても、行政の情報周知義務が確実に履行されなければ意味がないからです。

むしろ、下手な基準を定めてしまっては、今よりも改悪されてしまう可能性もあります。


したがって、

  • どのような方法で、
  • どの程度の頻度等で
  • 行政の周知が行われるべきか慎重に検討すべき、

というのが1点の課題に対する問題意識だったわけです。


権利性の収奪が起きないようにするための二段階の周知方法

 

一般的な周知方法


権利性の収奪が起きないようにするためには、行政の一般的な周知方法(政府広報自治体の広報、ホームページなど)により、制度や対象者、手続きに関する一般的な認知度をできる限り高めておく必要があります。

これが第一段階の周知です。

 

個別の周知方法

 

さらに、申請窓口に来た人(電話やメール、ファックスなども含む)に対する、個別の相談段階があります。

これは、いわば「個別周知」の機会であり、まさしく、個別に、その人の求めている制度や条件、手続きなどについて伝えることが求められます。

これが第ニ段階の周知です。

 

周知方法それぞれに課題がある


どちらも重要ですが、前述した問題の解決の方向性の2点目、すなわち、

  • 権利性の収奪が万が一起きてしまっても、事後的に救済されるようにすること

に関連して、二段階ある周知方法それぞれについて課題が生じてきます。


このことを念頭に置いた上で、

  • 万が一、権利性の収奪が起きてしまっても、事後的に救済する

という課題について考えてみたいと思います。


続きは、次回に回します

 

次回記事

申請主義が行政の財政負担を軽減しているというのは本当か? その5 - さくらのソーシャルワーク日記