申請主義が行政の財政負担を軽減しているというのは本当か? その6
本稿は、申請主義が行政の財政負担を軽減しているというのは本当か?ということについて検討しているものです。
第1回では、申請主義の権利性を確固とするため、私たち福祉関係者が取り組む必要のある、解決すべき課題を3点を挙げさせていただきました。
すなわち、
- 行政からの情報提供の不十分性
- 未申請(申請しない・できない)による漏救の放置
- 申請前に申請を諦めることによる権利性の収奪
の3点です。
本稿では、3点目の「申請前に申請を諦めることによる権利性の収奪」について、前回から引き続きご説明していきます。
以下、本稿の構成です。
申請前に申請を諦めることによる権利性の収奪
今回の概要
前回は、行政に対する一般的な周知義務に関して、「永田事件」の控訴審判決における、裁判所の判断についてご紹介しました。
永田事件の概要
父親に重度の聴覚障害がある家庭には児童扶養手当の受給資格があるのに、行政が広報義務を怠ったために制度を知らず申請が遅れ、
児童扶養手当の支給要件に該当していたにも関わらず、それを知る1年5ヶ月分の給付が受けられなかったとして、
夫婦が国と京都府に対して未払分の支払いなどを求めたものです。
裁判所の判断は、端的に言えば、
法律に規定がない以上、法的義務を課すことはできない
というものでした。
この点について、長尾(2012)が
「広報・周知の実施については, ある程度広い行政裁量を認めざるをえない」
と述べています。
しかしながら、私としては、むしろ一般的な周知の方を義務付けすべきと考えていることを述べました。
この一般的な周知義務について、もう一つ、裁判例を挙げて検討してみたいと思います。
以下、次回に送ります。
次回記事
申請主義が行政の財政負担を軽減しているというのは本当か? その7 - さくらのソーシャルワーク日記
(参考文献)
長尾英彦「行政による情報提供 : 社会保障行政分野を中心に」(2012)
高藤昭「社会保障給付の非遡及主義立法と広報義務 永井訴訟京都地裁判決(本誌751号238頁)の検討をとおして」判例タイムズ766号39頁以下(1991)
赤石壽美「生存権保障下における「漏救」の法的系譜」(2003)